Canonのノイズ除去ソフト、Neural network Image Processing Toolの長所と短所についてまとめました

概要

2022年11月21日、CanonはNeural network Image Processing Toolというソフトウェアを公開しました。公式曰く、

  • ニューラルネットワーク デモザイク
    • 進化したジャギー・モアレ・偽色抑制
  • ニューラルネットワーク ノイズリダクション
    • 進化したノイズ低減
  • ニューラルネットワーク レンズオプティマイザ
    • 進化した光学補正

の3要素から成り立っており、それらをRAWデータ(*.CR3)に適用することで、より高画質になったRAWデータ(*.CRN)を生成することができます。生成後RAWデータは、Digital Photo Professional(DPP)でのみRAW現像することができます。

まあ、ぶっちゃけDxO PureRAWのパクリですね。Deep PRIME XDノイズ除去はデモザイクとノイズ除去をニューラルネットワークによりセットで行なう技術ですし、元よりレンズ補正を自前で行なうソフトウェアでもあります。私はDxOの回し者じゃありませんが、明らかにコレを意識していると感じました。

また、「AI技術でノイズ除去する純正RAW現像ツール」に限定しても、OLYMPUS(現OM SYSTEM)に先を越されています。性能の差はここでは議論しませんが、そちらの意味合いでも、Canonに新規性は無いと言えるでしょう。

ただ、DPPユーザーであり、RAWデータにデジタルレンズオプティマイザ(DLO)を適用したい場合、RAWデータに強力なノイズ除去を適用しようとすると、Neural network Image Processing Toolしか選択肢はありません。以下、それを使う際のコツや注意点について記します。

使用方法

まず、”対象製品”のカメラで撮った写真のRAWデータを用意します。公式を見た限りでは、DIGIC X搭載機種のみとなっているようです。一番の安物でもEOS R10なので、実質的にかなり金が掛かるツールと言えるでしょう。

次に、Neural network Image Processing Toolをインストールします。インストール後、DPPから使用(選択したRAWデータに対して適用)できるようになりますが、初回起動時は、動作に適したPC環境かを診断することになります。

この際、サブスクリプションに加入することが必要になります。注意しましょう。

後は、選択したRAWデータに対し、このツールによって*.CRNファイルを生成していきます。生成した*.CRNファイルは、元の*.CR3ファイルと同様にRAW現像できますので、編集してJPEGなどに書き出しましょう。

効き目について

「ニューラルネットワーク ノイズリダクション」の効き目は明らか。デフォルト設定でも、綺麗にノイズを消し去ってくれます。

「ニューラルネットワーク レンズオプティマイザ」についても、低感度の画像で確かめた限り、確かだと思います。安いレンズはもちろん、

高額なレンズであっても、周辺部の画質向上を感じます。

デジタルレンズオプティマイザで回折補正が行えるのはご存じかと思いますが、ニューラルネットワーク レンズオプティマイザだと更に性能が向上します。

使用上の注意点

大量にありますので、詳しく解説していきます。

処理時間が非常に掛かる

言うまでもないですが、GPUをゴリゴリ使うツールです(CPU動作させた際の処理時間は考えたくない)。その癖、処理時間はDxO PureRAWの方がよっぽど短いので、Canonの技術力を疑いたくなります。

その癖、複数枚グラフィックボードを挿しても、プライマリGPUしか使いませんので(現状)、私のように「GPGPUに使用するグラボはセカンダリに挿しておくと、プライマリ側の画面描画が処理中でも乱れない」戦術を取っている人には裏目に出ることになります。

ちなみに、DPP4を終了させても、Neural network Image Processing Toolの処理は終了しません。また、*.CRNファイルを削除せず、再度同じ*.CR3ファイルを処理すると、「ファイル名がダブらないようにして」新たな*.CRNファイルが生成されます。処理パラメーター違いの*.CRNファイルを複数用意したい場合には有用でしょう。

単一ディレクトリの間でしか使えない

DPPのユーザーインターフェースからお察しの通り、「今DPPで開いているディレクトリ」のRAWファイルしか対象にできません。

つまり、「処理時間の多さ」を補うため、バッチ処理を仕掛けて寝ながら回そうとすると、単一ディレクトリに処理対象を固めて置いておく必要があります。

「RAWデータはディレクトリに分けて分類したので再度集約したくない」という人は、Link Shell Extensionなどを使って同一ディレクトリに処理対象のRAWデータ(のシンボリックリンク)を集め、それをDPPで開いて処理するとよいでしょう。

DPPにおけるフィルター表示では*.CR3と同じ扱い

DPPでは、開いているディレクトリに対し、表示するファイルを選別するフィルター機能があります。例えば拡張子でも絞り込めますが、「*.CR3」だけ表示するようにしても、「*.CRN」ファイルが紛れ込みます。設計が明らかにおかしい

処理結果はプレビューできない

DPPにおけるノイズ除去機能では、ノイズ除去パラメーターの処理結果を小窓で確認できます。しかし、このツールの場合、そういった機能はありません。いくら高性能なノイズ除去ツールと言っても、プレビュー機能は端折って欲しくなかったところ。

DLOが使えないレンズでも問題なく使用できる

ニューラルネットワーク レンズオプティマイザが使えるレンズなら、このツールに掛けると、ニューラルネットワーク レンズオプティマイザが適用された*.CRNファイルが生成されます。

ニューラルネットワーク レンズオプティマイザが使えないものの、DLOは適用できるレンズなら、このツールに掛けると、通常のDLOが適用された*.CRNファイルが生成されます。

DLOすら適用できないレンズなら、このツールに掛けると、収差補正が適用されていない*.CRNファイルが生成されます(SIGMAのように一部の収差補正だけ適用できる場合は未調査)。

*.CRNファイルの場合、「周辺光量補正」「歪曲収差補正」はON/OFFできますが、それ以外の収差補正機能が無効化されています。言い換えれば、「適用済みになっている」と言えます。ノイズ除去やデモザイクにも効く機能ですので、ノイズや偽色が気になる場合は掛けてみると役立つことでしょう。

たまに処理結果がバグる

今のところ確認できているのは、「モノクロの絵しか出てこない*.CRNファイルが生成されることがある」「処理に失敗する*.CR3ファイルが存在する」です。

「モノクロの絵しか出てこない」については、遭遇頻度が少なく原因が不明なので、そうならないことを祈るしかありません。

「処理に失敗する*.CR3」については、手元のデータだと、EOS R5+RF24mm F1.8 MACRO IS STMで撮ったものについて、必ず失敗することを確認しています。常に失敗するのか、RF16mm F2.8 STMなど他のレンズにも起こりえるかは、まだ調べられていません。なお、RF24-240mm F4-6.3 IS USMで撮ったものについては問題なかったので、単に「収差が多い」程度では失敗要因にならないようです。

後日やり直したらEOS R5+RF24mm F1.8 MACRO IS STMでも成功したので、首を傾げました。処理結果が冪等じゃないとか、そんなことあります??

まとめ

効き目自体は嘘ではなく、ノイズ除去だけでなく、回折補正や収差補正もバチバチに効くことは確認しました。ISO感度が低い画像でも、周辺減光補正によるノイズ増加や、DLOによるノイズ増加に対処できますので、「とりあえず掛ける」レベルで使いたいツールと言えます。

しかし、前述した通り、「仕様上の注意」も大量にあります。どう考えてもDxO PureRAWやDxO Photolabの方が使いやすい。今後、アップデートで使い勝手が向上するかもしれませんが、現時点では色々気を配る必要がありそうです。

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