概要
2020年2月14日、CanonはEOS-1D X Mark IIIを発売しました。フラグシップモデルなだけあり、様々な新機能が盛り込まれた機種でしたが、そのうちの一つに映像エンジンDIGIC Xがあります。DIGIC Xによって、被写体認識アルゴリズムの進歩、測距輝度範囲の向上、測距エリア全域F11光束対応AFなど、オートフォーカスの性能が大幅に向上することとなりました。
ここで面白いのが、そのDIGIC Xが、EOS R5/R6以降のRFマウント用カメラ全てに搭載されていることです。EOS R50のような廉価な機種でも同様なため、AFだけ良ければ問題ない場合、躊躇なく安い機種で済ませられることを意味します。例えるなら、「ガンダム(RX-78-2)の戦闘データがコピーされているジム(RGM-79)は初級パイロットでも使いやすい」ようなものですね。
ただ、発売時期の都合か、同じ「DIGIC X搭載機種」でも、仕様に微妙な差があります。気になる人もいると思いますので、色々とまとめてみました。
製品一覧
※EOS R5Cは動画機であり、比較に適さないと思われるので省いた。AFの仕様などは恐らくEOS R5と同様
機種名 | 発売日 | センサー | 画素数 |
---|---|---|---|
EOS-1D X Mark III | 2020年2月14日 | フルサイズ | 2010万画素 |
EOS R5 | 2020年7月30日 | フルサイズ | 4500万画素 |
EOS R6 | 2020年8月27日 | フルサイズ | 2010万画素 |
EOS R3 | 2021年11月27日 | フルサイズ | 2410万画素 |
EOS R7 | 2022年6月23日 | APS-C | 3250万画素 |
EOS R10 | 2022年7月28日 | APS-C | 2420万画素 |
EOS R6 Mark II | 2022年12月15日 | フルサイズ | 2420万画素 |
EOS R50 | 2023年3月17日 | APS-C | 2420万画素 |
EOS R8 | 2023年4月14日 | フルサイズ | 2420万画素 |
機能比較
認識AFの対象
実装状況は、大きく分けて3種類に分かれています。
ケース | 機種 |
---|---|
A | EOS-1D X Mark III |
B | EOS R5/R6/R3/R7/R10/R50 |
C | EOS R6 Mark II/R8 |
ケースAでは、人間の瞳/顔/頭を認識します。
ケースBでは、ケースAに加えて人間の胴体、犬/猫/鳥の瞳/顔/全身、車/バイクの車両/部品/頭を認識します。
ケースCでは、ケースBに加えて馬の目/顔/全身、飛行機/鉄道を認識します。
古い機種でも対応する認識内容をファームウェアアップデートで増やせると良かったのですが、今のところはそのようになっていないようです。認識AFではない素のAFも強力なため、そこまで気にする必要はないかもしれませんが、気になる人は気になるかもしれません。
認識AFの操作性
実装状況は、大きく分けて3種類に分かれています。
ケース | 機種 |
---|---|
A | EOS-1D X Mark III、EOS R5/R6/R3 |
B | EOS R7/R10 |
C | EOS R6 Mark II/R50/R8 |
ケースAでは、認識AF専用のAFモード(画面全域から認識するモード)があり、それ以外では認識AFを使用できません。ケースB・ケースCでは、一点AFやエリアAFなど、他のAFモードからも、認識AFを働かせることができます。
また、ケースCでは、「どの種類の認識AFを使用するか」について、被写体から自動判定する「自動」設定を利用できます。より便利になったわけですね。
なおケースBでも、シャッターを半押しした状況では、「指定した認識AF以外の判定対象」への認識が働きます。例えば「人物」モードを選択していた場合、シャッター半押し時は「人物」「動物」「乗り物」への認識が働き、シャッターを切ると「人物」のみの認識に切り替わります。
HDR撮影について
関係する要素としては、以下の4つがあります。
要素 | 内容 |
---|---|
A | JPEG形式 / HDR PQ撮影によるHEIF形式 |
B | 通常モード / HDRモード |
C | 高輝度側・階調優先とALOを併用できる / できない |
D | HDR合成時のゴーストを抑制できる / できない |
それぞれは互いに組み合わせられるため、実装状況は、大きく分けて4種類に分かれています。なお、どの機種でもHEIF形式で保存できるため、要素Aは列から省いています。
ケース | 要素B | 要素C | 要素D | 機種 |
---|---|---|---|---|
A | 未対応 | できない | できない | EOS-1D X Mark III |
B | 対応 | できない | できない | EOS R5/R6 |
C | 対応 | できる | できない | EOS R7/R10/R50 |
D | 対応 | できる | できる | EOS R3/R6 Mark II/R8 |
要素Bにおける「HDRモード」では、露出を変えて3枚撮った後に合成することで、出力される画像のダイナミックレンジを広げることができます。3枚撮った元画像は、合成後の画像と別に保存できるので、他のツールでHDR合成し直すこともできますし、単なる露出ブラケット撮影の代わりとしても使えます。
要素Cは、シャドウ側のダイナミックレンジを代償にハイライト側のダイナミックレンジを増やす「高輝度側・階調優先」と、絵の明るさを自動で調整する「オートライティングオプティマイザ(ALO)」を併用できるか否か、といった設定です。不可解なことに、要素Cの非対応機種で撮った写真は、DPP4の上でも併用できませんので、併用させたい人にとっては重要な要素となります。
要素Dは、HDRモードで3枚合成する際、被写体に含まれる動体を上手く処理できるか否かを示します。動体が含まれる場合、合成後の画像にゴーストが残ることがあります。要素Dに非対応な機種で撮った写真は、そのゴーストを抑制できません。
なお、要素Dについては、EOS R3で行なった対策と、EOS R6 Mark II/R8で行なった対策とは異なります。
EOS R3の場合、HDRモードにおける3枚の画像を0.02秒の間に撮影できるのでブレが少なく、その少ないブレを「HDRゴースト補正」機能で更に抑制できます。
EOS R6 Mark II/R8では、1枚撮影してからカメラ内RAW現像でHDRっぽい絵にする「動体優先HDR」と、いつも通り3枚撮影してから合成する「Dレンジ優先HDR」があります。このうち、要素Dを満たすのは前者であり、後者ではありません。
連写速度、フリッカー抑制機能、フリッカー抑制時の連写
機種名 | メカシャッター | 電子シャッター | 高周波フリッカーレス |
---|---|---|---|
EOS-1D X Mark III | 16コマ/秒 | 20コマ/秒 | ― |
EOS R5 | 12コマ/秒 | 20コマ/秒 | ― |
EOS R6 | 12コマ/秒 | 20コマ/秒 | ― |
EOS R3 | 12コマ/秒 | 30コマ/秒 | 対応 |
EOS R7 | 15コマ/秒 | 30コマ/秒 | ― |
EOS R10 | 15コマ/秒 | 23コマ/秒 | ― |
EOS R6 Mark II | 12コマ/秒 | 40コマ/秒 | 対応 |
EOS R50 | 12コマ/秒 | 15コマ/秒 | ― |
EOS R8 | 6コマ/秒 | 40コマ/秒 | 対応 |
こうして見比べると、EOS-1D X Mark IIIにおける物理幕の頑強さと、対応する電子シャッターが20コマ/秒から30コマ/秒、そして40コマ/秒へ移り変わったことが分かります。1コマ台の連写速度が当たり前だった時代からすると隔世の感がありますね。
ここで、高周波フリッカーレス対応機種の場合、電子シャッターの弱点の一つであるフリッカーを抑制することができます。
なお、EOS R3では、電子シャッターのもう一つの弱点であるローリングシャッター歪みも少ないですが、これは映像エンジンによるものではなく、センサーが積層センサーであることに由来するものです。
対応する動画撮影モード
機種名 | RAW撮影 | 8K | 4K | 2K | Canon Log |
---|---|---|---|---|---|
EOS-1D X Mark III | 5.5K | ― | 60p | 120p | Canon Log |
EOS R5 | 8K | 30p | 120p | 120p | Canon Log, Canon Log3 |
EOS R6 | ― | ― | 60p | 120p | Canon Log, Canon Log3 |
EOS R3 | 6K | ― | 120p | 240p | Canon Log3 |
EOS R7 | ― | ― | 60p | 120p | Canon Log3 |
EOS R10 | ― | ― | 60p crop | 120p | ― |
EOS R6 Mark II | ― | ― | 60p | 180p | Canon Log3 |
EOS R50 | ― | ― | 30p | 120p | ― |
EOS R8 | ― | ― | 60p | 180p | Canon Log3 |
この中で唯一8K撮影できるEOS R5、4K120p撮影もこなせるEOS R3が目立ちますが、初期でありながら5.5K RAW動画撮影が可能なEOS-1D X Mark IIIは流石のフラグシップモデル。表だと少々ややこしいですが、EOS R5は8K RAW動画も、8K通常動画も撮影できます。
Canon Logは下位機種を除く全てで使えますが、Canon LogのトレンドがCanon LogからCanon Log3に移ったことが窺える実装状況です。どうしてもこの機能が使いたい場合、EOS R10やEOS R50は選べないということになります。
ちなみにEOS R10の場合、60pならクロップされますが、30pならノンクロップで撮影できます。
まとめ
全体を俯瞰して見ると、機能の実装状況について、5つのグループに分けられることが分かります。
グループ | 機種 |
---|---|
A | EOS-1D X Mark III |
B | EOS R5/R6 |
C | EOS R3 |
D | EOS R7/R10/R50 |
E | R6 Mark II/R8 |
このうち、グループ間の差が激しい順に並べると、「AからB」「BからC」「DからE」「CからD」といった認識です。それぞれ、「ミラーレス化によって上限が取り払われた」「認識AFや高輝度側・階調優先の使い勝手が向上した」「動体優先HDRや高周波フリッカーレスなどが追加された」「上位機種の意地」といったところでしょうか。
世代だけ見ればグループE……新しいカメラの方が便利ですが、新機能が必須でなければ、それより前の世代でも十分役立ってくれます。「グループB~C間でDIGIC Xのチップの型番が違う」といった話も耳にしましたが、細かなマイナーチェンジは他のグループ間でもあるかも知れません。
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