ゆずソフト最新作 (2019年)、安定した仕上がり。『喫茶ステラと死神の蝶』をクリアして感じた詳細な感想。

概要

サノバウィッチ千恋*万花RIDDLE JOKERと来れば、『喫茶ステラと死神の蝶』を選ばない理由はない。

……というのもそうですが、この前のコミケ (C100) では『千恋*万花』と『喫茶ステラと死神の蝶』がプッシュされていたので、余計に内容が気になった……というのもあります。

ゲーム開始は2022/7/26、ゲーム完走は2022/9/26でした。

作画がなんか違う!?

まず気づいたのは、キャラクターの作画が、前作『RIDDLE JOKER』と少し違うということでした。もちろん「むりりん/こぶいち」という原画コンビは共通なのですが、キャラにおける影の付け方など、なんか違うなーって。その違和感に慣れるまで、しばらく時間を要しました。なお、こもわた遙華さんが担当されているSD絵の方は、いつも通りで安定していました。

髪の毛の差し色については、ゆずソフトSOUR『PARQUET』にも共通したものを感じます。

なお、なーんかデッサン(=パースの付け方)が気になるスチル絵が幾つかありました。絵については詳しくありませんが、このパースって合ってるの??

どことなく既視感を覚える描写・設定

この作品には死神「明月栞那」が登場し、時折飛び交う「蝶」を狩る役割を果たします。「蝶」はこの世における魂の残滓で、主人公の魂など、この世に心残りを持つ者の魂に引き寄せられてしまいます。主人公の体質は多少特殊なため、蝶を取り込んで吸収してしまい、意図せずして強大な力……「奇跡」を起こしかねません。そのため、喫茶店開業を通じて、同じく悩める者をそれとなく集め、効率よく「蝶」を狩りつつ、主人公の問題も解決することにしました。なお、栞那は、ケット・シーであるミカドと手を組んでおり、ミカドは猫の姿と人間っぽい姿とを使い分けます。

なるほどなるほど。面白そうじゃないですか。……『サノバウィッチ』と『Summer Pockets』を連想してしまうことを除けば

例えば『サノバウィッチ』では、人々の悩みを解決することを通じて心の欠片を集めるため、綾地寧々と七緒(猫のアルプ)がタッグを組みます。七緒も猫の姿と人の姿を使い分けますし、お悩み解決も兼ねて喫茶店を経営しています。寧々さんにせよ栞那にせよ、主人公の心/魂の問題を解決することを通じて、「奇跡」をどうにかコントロールしようとしているわけです。

一方『Summer Pockets』では、人の記憶が転じた「七影蝶」が、シナリオの根幹を左右しています。多く集まれば奇跡も起こせる存在ですが、安易に触れると記憶が流れ込む危険性もあります。エフェクトとしては、前述した「蝶」と同じく青色をしており、ヒラヒラと漂い、一部の者にしか見えないことも共通しています。栞那は「狩る」ことで「蝶」を解決し、空門蒼は「儀式を通じて所定の場所に誘導する」ことで「七影蝶」を解決しています。

これらの作品は『喫茶ステラと死神の蝶』より前に出た作品ですので、作品作りに影響があったのかもしれませんし、ないかもしれません。ただ、そうした過去の経験が頭をよぎってしまうというのは、目新しさ、といった点ではマイナスとなります。パクりってほど似ているわけではないにせよ、微妙な気持ちにさせられたのは確かです。


ただ、露骨な過去作パロディや、エッセンスだけ取り入れたようなシナリオは、個人的に好きです。詳しくは希ルートにて。

各シナリオの評価

アイキャッチは、各キャラ個別に3枚づつ。まさかサブヒロインルートの方まで増量してくるとは思いませんでした。大盤振る舞いですね。

明月栞那ルート

見た目や性格について

栞那の場合、髪型をツインテールにしているときの姿が私は好きです。ただ性格については、あまりに善良な方向に振り切っているためか、飲み物で例えればMAXコーヒーみたいな甘さしか感じませんでした。トレードマークである「にひひ」笑いにしても、過去作におけるイジりキャラ属性をブラッシュアップさせたのかなー、と考えていました。言い換えると、あまりにあざといんですよ、彼女は。

ただこれは、「主人公の壮絶な前世・前々世を見てきた蝶達の集合体」という彼女の生い立ちからして、主人公に対して最初から好意的なのは、そうかな……そうかも……といったところ。死神という存在の目的が「生への執着を取り戻す」であることからして、前向きな気持ちにさせてくれる、応援したくなるような方が気になってしまうのは自然なのかもしれません。

一方主人公は……努力家であることは認めるのですが、比較的受け身というかなんというか。「神様から悪い意味で目を付けられた犠牲者」感がずっと拭えないんですよね。一応、「奇跡」を起こしてムチャクチャは起こせますが、そんなのは『涼宮ハルヒの憂鬱』における涼宮ハルヒと同様の、「”自前で制御できない爆弾”」じゃないですか。これといって惹かれる要素がないなーといったところ。この妖怪乳しゃぶりめ。

シナリオについて

まず目に付くのは、下ネタがぶっ込まれる頻度が妙に多い (気がする) ところ。会話中に差し込まれるのはもちろん、「パイ・アルク」イベントのような力技まで。エロゲーなので内容に問題はありませんし、オナニーネタがガンガン飛んでくる『サノバウィッチ』という前例もあります。ただ、登場人物達の年齢設定が高めなせいか、その頻度が今回多いような……気がするんですよね。それが自然なの?

また、栞那ルートはざっくり言うと「奇跡」で問題を解決する展開ですが、初見ではなんだかよく分からないうちに重要な問題 (死神なので人間と結ばれない) が解決してしまい、「おいおいおいちょっと待って」となったのもまた事実。異類婚姻譚ものの展開上、「死神からどうにかして人間に変身するか生まれ変わるだろう、例えば栞那そっくりの子が出てきて……」とは予想していましたが、まさかそこで「奇跡」を行使してサクッと片付けてしまうとは。

こう言ってはなんですが、「奇跡」ネタの使い方は『サノバ』の方が上手かった気がする。最後はまあ、上手くまとめてくれたので読後感は良かったですけどね (ED後は駆け足な気もする)。

ところで死神の鎌って人間に戻ってからも使えるの……なにそれ強すぎる……。

その他

「そりゃそうでしょ。未練を残したまま死にたくなくて世界を巻き込んでまでやり直す男のくせに」
↑ここすき。

四季ナツメルート

見た目や性格について

ナツメ:周囲への引け目が強いようで、関係を深めることに抵抗感が強かった彼女も、主人公と恋人になった後はだいぶ積極的になり……端的に言えばデレてくれるのが大変好ましい。よく焼きもちを焼くタイプなのも、この手のキャラでは定番ですが、良いよね……!

栞那:栞那ルートで裏側が明かされたことで、彼女の所作がだいぶ腑に落ちるようになりました。ただ、栞那ルートは、『RIDDLE JOKER』における三司あやせルートのような「種明かし」感が強く、後に回すべきなんじゃないかと思ったりもします。

主人公:ナツメの「夢」に付き合う都合、より努力していく方向になっているのは個人的にグッド。ナツメと仲が良いことについて、友人達から全力でやっかまれる描写まで含めて面白い。このルートでは「奇跡」に頼れないせいもあってか、いい感じに動き回ってくれました。

希:主人公のナツメに対する思いを悟ってしまい、そっと後押しする、この一連の流れが大変切ない……

シナリオについて

ゆっくり距離を縮めて心の障壁を無くしていく、古典的ながら安定した仕上がり。
トラブルが起きた際も、栞那ルートと違い”奇跡”ぶっぱで解決ではなく、これまでの展開を生かした自然な流れだったのは助かります。
もっとも、2人に縁が出来たのはその”奇跡”のせいなのですが。
シナリオのラストも、過去に彼女が紡いでいた縁を呼び起こす熱い展開で、控えめに言って最高でした。

また、どこかで「ナツメはめっちゃ積極的に求めてくるタイプ」と聞いていましたが、本当にその通りで驚きました。Hシーンの頻度が多い気がするし、こたつに入るとスイッチが入りそうになるし。Afterシナリオに至っては、全力で搾り取らんとしてきますよこの子。現代風に言うと肉食系女子だこれ。

その他

汐山君に女の子を紹介する流れ、この段階だとギャグだと思ってたんですよ。

マジで実現するとは……しかもカップルが成立してしまうとは……。

火打谷愛衣ルート

見た目や性格について

どちらかと言えばツッコミタイプな後輩ヒロイン。ですが、猫が絡むと性格が変わるらしく……。前作の三司あやせ ばりの暴走っぷりを見せます。

また、「おうち眼鏡」概念が久々に登場。眼鏡だけなら前作の式部茉優先輩も掛けたことあったような気がしますが、開発に、おうち眼鏡フェチでもいるのだろうか。

シナリオについて

死神として働く栞那、魂が零れて蝶になりそうなナツメ。両名は共通ルートの時点から、その性質や伏線を匂わせていました。

一方、愛衣の場合、左目に「虫喰の瞳」を搭載していることは個別ルートで明かされるため、正直な話、取って付けたような設定に見えました。
それによって過去が云々と言われても、それほど大きくシナリオには関わらないだろう、と。
ぬいぐるみの件やジムの件など、小さな交流を通して仲が深まっていくのは、先輩後輩間のシナリオではありがちな展開です。
そのため、『RIDDLE JOKER』のように、メイン2人(あやせと茉優)以外は、本筋に大きく関わらない、ライトなルート展開になると思っていました。

しかし、恋人同士になり、何回か体を重ねた後から物語は動き出します。
先ほどの過去設定 (友人との仲がギクシャクした件) について、遅ればせながらCHAPTER 8、通常のヒロインならイチャイチャしてエッチすることぐらいしかヤることがない段階で、解決を試みます。
その際、「主人公の心理状態が不安定になると蝶が寄ってくる」といった性質を有効活用しているのも、主人公らの助力で彼女が意欲を取り戻す様も素晴らしい。
いやはや、まさか後半からギアが入るタイプのルートだったとはな……。

このルートにおいて立役者と言えるのが、愛衣に恋を自覚させ後押しした涼音と、愛衣の能力を監督しつつ愛衣の(可愛い物好きという)暴走を招いた閣下。
特に涼音の場合、平常時でも野次馬力がそこそこあったところ、今回はやけに張り切っている感がありました。他のルートにしてもそうですが、涼音さんが思ったより恋愛ネタでも仕事するんですよね。
逆に希は、いつもよりも主人公に対してクールな扱いに留まっていました。バレンタインデーの時にめちゃくちゃバッサリ斬ってくるじゃん君……。

墨染希ルート

シナリオについて

本作の幼馴染は、毎朝主人公(昂晴)を起こしに来て、朝食まで作ってくれる仲です。お互い遠慮なく言い合える仲ですが、それ以上の進展がない状態でした。

しかし、栞那という死神に巻き込まれ、ナツメという高嶺の花が計画するカフェ計画に関わったことで、主人公の周りの世界は大きく動きだします。愛衣という後輩、涼音という先輩もでき、いつしか身近には女の子ばかりとなってしまいました (ミカドもいるが) 。

そんなあるとき、ネズミーランド (遊園地) のクリスマスペアチケットを友人から譲り受けます。
昂晴は希と愛衣 (2人は友達同士) にそれを渡して手打ちにする気でしたが、涼音らが気を回したことにより、結局希と昂晴とで行くことに。
そして、ネズミーランドの経験を通じ、互いに意識しだすようになったところ、緑郎 (希のお父さん) が怪我をしてしまい――。

……とまであらすじを書き出しましたが、もうベッタベタな幼馴染ルートって感じですね。「小さい頃に結婚の約束をした」「親はとっくに容認している」といったおまけ付き。「何か捻れ!捻りが欲しい!」と思いながら読み進めていました。

すると、上記の展開の後、希が徐々に、巫女としての才能を発揮していきます。後述する巫女姫様ではなく、自分が舞を練習して奉納する……ベタながら、良い流れじゃないですか。
神社周りの設定展開にしても、「今伝わっている伝承は、神々が知る本来の形からずいぶん変化したものであり、実際はもっとドロドロしたものである」といった方向性なため、話に深みを持たせることになり、読み応えが向上したように感じました。
また、共通ルートで語られる「神から命を狙われている主人公」の流れから、その神と立ち向かうような展開も良かったです。前半ではあまりモチベが持ち上がらなかったところ、後半で良い展開に持って行けたかな、と。

巫女姫様とバイト巫女

このルートでは、ゆずソフトとしては珍しく、背景ネタじゃないガチの過去作パロディがシナリオに関わってきました。年末に行なわれる「巫女の舞」は、他所から巫女を派遣して舞ってもらうのですが、その相手が「朝武さん」で、舞うのが「巫女姫」だというのです。その件について、巫女姫様と比べると自分はバイト巫女でしかないと、自虐する希もいました。

ただ、さすがに初体験の際に巫女服を持ち込むところは、巫女姫様を真似しなくてもいいのよ?

涼音ルート

見た目や性格について

涼音は、ロリ体型・でも大人・パティシエとして真剣・家ではビールをキメてたりする、とキャラが濃い人物です。担当としては主にツッコミ役で、考えも現実的であり、良い意味で二次元チックじゃない塩梅が好印象でした。

が、彼女に注目したいのはそこではありません。
喫茶ステラを支えるスタッフとして、また悩める後輩達を支える先輩として、登場頻度が割と高かったことです。

これまでプレイしてきたゆずソフト作品……具体的には『サノバウィッチ』『千恋*万花』『RIDDLE JOKER』は学生物。そのため、先輩キャラは3年生になります。すると、後輩を1年生にする都合上、主人公は2年生となり、それぞれ1年しか、世代が離れていませんでした (茉優などの例外を除く)。また、学園上の立場から、会う機会といったら要職関係とか部活とかで、同年代のキャラ (この場合は2年生) よりも関わり合いが減ってしまいます。さらにサブヒロインとなると、ゲームとしての本筋 (心の欠片集めや祟りの解決など) に関わらないことから、ますます存在感が薄まりがちでした。

しかし、『喫茶ステラ』の場合、職場が主な舞台なため、仕事上の付き合いなどで、主人公が先輩キャラと会う頻度を稼げます。また、涼音自身、面倒見が良いキャラなため、共通ルートや涼音ルートのみならず、他のヒロインのルートでも、主人公の相棒や、ヒロインの相談役として、役割が輝いていました。端的に言うと、「サブヒロインの扱いが良い」。割と真面目な話、先に挙げた三作品より、サブヒロインが優遇されてませんか?

シナリオについて

サブヒロイン√ということもあり、分量は控えめ。そう言えば語られていなかった、涼音に「蝶」がまとわりついていた詳しい理由を主としての流れでした。サブヒロイン√だと「本筋」との関わりが少ないため、何か別の目的がシナリオに求められますが、本作は自然度が高かったかなと。

他にもシナリオで良かったところ

・ゆずソフト恒例ですが、お父さんキャラが良い人なこと

・今作は特に、主人公に女性との向き合い方を伝授する描写が多かった。具体的にはナツメと涼音から。この作品は教本だった……?

・オナ病み相談室、まさかの公式ネタ化

・発売年に合わせて令和ネタが差し込まれているとは、芸が細かい

・「おちんちん」は伏せ字にしないといけないのに「おてぃむてぃむ」が許されるのは日本語のバグでは?

その他小ネタ達

神社の背景絵だけ輪郭が濃い気がする。

これ純愛ゲーだから!催眠なんてないから!!

まさかの将棋星人ネタ。

やっぱアイツの胃はおかしかったんだなって。

ここだけフォントの表示がおかしかった件について。

数奇な運命だよなぁ……

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